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亜人間都市『語りえぬもの』インタビュー 05

〈出演〉水川瑞穂

聞き手:朝倉憩

2017年9月24日 新宿区内稽古場

『語りえぬもの』ドキュメント、インタビューシリーズ。

インタビュー第5弾にして、シリーズのラストを締めくくるのは、出演・水川瑞穂さん。

亜人間都市には今作にて都合4回の参加となる水川さん。

これまでの作品との流れを踏まえつつ、今作について語っていただきました。

過去公演でのインタビューもぜひ合わせてお読みください!

▶︎▶︎▶︎ 「役者・水川瑞穂のこと」

水川 瑞穂(ミズカワ ミズホ)

1995年生まれ、フランス出身

高校時代から演劇活動を始め、早稲田大学入学後は劇団くるめるシアターに入団。くるめるシアターの先輩でもある黒木に誘われ、『反透明』にて亜人間都市の公演に初参加。以降『神(ではない)の子(ではない)』『かもめ-越境する-』に出演し、今作で四度目の亜人間都市公演への参加となる。その他出演に the pillow talk, ミズタニーなど。

「亜人間都市の現場を踏むたびに、人に対して寛容になってる気がします」

──今回のインタビューでは、出演者の皆さんに演劇との関わりについて伺っているのですが、水川さんについては、昨年の公演でのインタビューですでに演劇との関わりをお話ししてくれていますね。

そうですね。ミュージカルが好きで、ミュージカルがやりたくて、でも音痴だからやれないなと思って、それでも舞台に立ちたかったから高校で演劇部に入って……っていう話を前回したんでしたっけ。えっと、それで、演劇を今も続けているのは大した理由ではなくて、大学に入ってすぐに失恋しちゃって、新しいことを始める気になれなかったんですよね(笑) それに居場所が欲しかったので演劇サークルに入りました。なので惰性じゃないですけど、そんな感じで演劇をやっています。

──舞台に立ちたかったということは、演劇がというよりは役者がやりたかったんですね。

はい。スタッフとかも特にやる気はなくて、役者をやれるものと思って演劇サークルに入ったんですけど……でも最初の1年くらいはぜんぜんオファーを貰えませんでした。役者もやらず、スタッフもやらないとなると、演劇サークルの中で居場所がなくなっちゃうなと思って。なので制作のスタッフをしていたんですけど、ずっとスタッフの仕事しか来なくて、もうこのままスタッフしか回ってこないのかなーと思っていたところに、亜人間都市の『反透明』っていう第1回目の公演に誘われて。それに出てからはなんとなく役者として呼ばれるようになって、3年生になってからはぼちぼち役者をやれていました。

──亜人間都市の公演として出られたのはその『反透明』と、

「神の子」と「かもめ」ですね。今作までに3回出ました。

私のサークルでの新人公演のときに、実は黒木さんから色々とアドバイスを貰うことがあって、その時から黒木さんは知っている先輩っていう感じなんですよね。そのときのことがきっかけだったのか、縁なのかはわからないんですけど、公演に誘ってもらえて。それで亜人間都市の公演に出てるときは、私自身知り合いから「良かった」と言ってもらえることが多いので、毎回なにかあるたびに誘ってくれるのがとてもありがたいなって思ってます。

──何度も一緒に公演をやれているというのは、やはり合うものがあるんですかね。

これも前のインタビューで言っちゃったかもしれませんけど、演劇は男性目線なものが多い気がしていて。女性の描き方とか、女性の役者の扱い方にしても、なんだか支配的なものが多くて。「女性ってこういうものじゃん」みたいな前提を持ってこられたとき、その前提に乗れないと反感を覚えてしまうというか……。

それで、黒木さんは常に「人と人のわからなさ」みたいなものを扱っていて、その中には「男女」というのも入ってきて……やっぱりそういう性別の違いも人と人のわからなさの要因の一つだと思うんですよね。なので、そういうところに焦点を当てているからか、そもそも黒木さんっていう人が基本的に優しい人物だからなのかわかりませんが、「女性はこうだ」みたいな変な前提がないというか、「そのままでいいんだよ」みたいに言ってくれるので(笑) それは単純にやりやすいし、抵抗もないし、嬉しいし。人間としてまるっと自分を受け入れてくれる人って、いろんな人と出会う中でも少ないので。そういう人だからやれているんですかね。

──黒木さんに信頼があるんですね。それでは水川さんに、亜人間都市のこれまでに出演してきた作品などと比べて、今回の作品をどのようなものだと思っているのかお伺いできますか?

過去の公演で言うと「かもめ」に似てるのかなって思います。「反透明」や「神の子」は、社会的なメッセージ性がそれなりに強くて。本当の現実のリアリティ、社会のリアリティっていうのを意識していたのかな、とかっていうのを思うんですけど、一方で「かもめ」はそもそもチェーホフの作品で、昔の作品ですし、今の現実社会との接点っていうのでは全然作っていなくって。それよりも「人間関係」っていう抽象的なものを具体化するっていうのがイメージとしてあったんですけど、それに近いというか、それを引き継いでいるというか。

でも、キーワードも「浮気」で、抽象的な身体表現をやろうとしている割に「浮気したい……」とか「彼氏が浮気してる……」みたいな、軽い話題? 当人からすると重たい話題かもしれないけど、第三者からするとどうでもいいようなもので。そういうものを身体表現みたいな抽象的なやり方で表現するっていうのは、不思議な組み合わせですよね。

例えば「神の子」と「かもめ」でも、今と近い形で身体表現をしていたんですね。でもそこでは「お客さんから見ても分からない」ていうのと「人間同士の分からない」ていうのが重ねられて表現されてたと思うんです。だから今回の作品のこの不思議な組み合わせの正体が、自分でも掴めているのかというと、未だに分からないというか。これまでの作品はまだ掴みどころがあって、なので「どういう作品ですか?」と聞かれても「こういう作品です」てわりと簡単に答えられたんですね。でも今回はなかなか簡単には答えられなくて……。

だからなんだろう……。恋人同士が浮気しているかもしれない、ていう、しかも「不倫」じゃなくて「浮気」。彼が浮気しているかもしれない、でもそれでもいいかもしれない、ていうカモシレナイ続きな役で、特に私の役は。でも、そういう煮えきらなくて、割り切れなくて、結論を出せない人間が描かれているっていうことなのかな。

──水川さんの演じている役柄について、もう少しお伺いできますか?

そうですね……さっき話したことと重なる部分がありますが、割り切れなさってあるじゃないですか。というか、正しいこと? 例えば作品のことで言うと、一般常識的に「浮気」ってダメですよね。ましてや「浮気してくれてたらいいかも」なんて。そういうのを思っちゃうのっておかしいというか、倫理的にはダメだなっていうのは分かるじゃないですか。でも分かってるのに、そっちには振り切れないとか、なんとなく違う気がする、なんとなくそうじゃない気がする、みたいなことってあると思うんです。人間ってけっこう皆グレーゾーンだと思うんですよ。そういう割り切れない、フラついた、正しくない人間が私の演じている役なのかなって。

──なるほど……では、この作品を通して受けた影響など、もしあればお伺いできますか?

そうですね……亜人間都市の現場を踏むたびに、人に対して寛容になってる気がします。寛容にならないとやってられないというか(笑)

これは私の卒論の先生が言ってたことなんですけど、「インテリは白黒つけたがる」ていうのがあって。で、私はいま卒論でジョージ・オーウェルを扱っていて、それで思うのは、作家とか芸術家は違うよね、ていうことで。そういう人たちは人を割り切らないというか。人間の中には善も悪も、微々たる善も微々たる悪も存在しているのを知っている人たちなのかなって思います。

今回のものみたいな作品を受け入れてやっていくって、寛容にならざるをえないというか、人に対して優しくなっていくのかなって思います。こんな人もいて、あんな人もいて、でもそれが人間だよね、みたいにキャパが広くなっていくっていうか、視野が広くなっていくというか、そんな感じですね。

私の場合は自分にも相当甘い人間なってしまったので(笑) 成長なのか後退なのか分からない部分がありますけど、でも以前のように人を責めなくなったというか。「なんでこれ出来ないの!?」とか「あいつはどうせ出来ない人間だ」とか、簡単には言えなくなりました。言えないし、言わない自分がいいなって、今は思います。

──前回のインタビューでは「自分は理屈で考える人間」と仰っていましたが、そういう部分にも影響を受けるものがありますか?

そうですね……脚本を読んでいて意味がわからないセリフとかがあったとして、前だったら「は、なんで?」「理解できない」みたいな感じになりがちだったんですけど、今は漠としたものを漠としたままに掬い取れるようになったかなって思います。だから去年のインタビューのときよりは、ずっと柔らかく、丸くなったかな。

ただ、稽古においては、未だにフィーリングで演出を貰っても全然わからなくて。具体的に演出を貰えた方が良いので、そこは変わりません。だから今の稽古でも「わかんないわかんない!」みたいな、5歳児みたいな感じになることが時々あって(笑) 反省する部分もあります。でも私がこれだけ「わかんない」ていうのを素直にぶつけられる演出家は今までいなかったし……これからだってきっとそんなにはいないのかなって思います。

──愛のあるコメントが出ましたね(笑) それでは、最後にお客さんに向けてなにか一言いただけますか?

ぜひ拒絶はしないでほしいなって思います。もちろんお金を払って来ていただくのだし、いろいろとイメージを膨らませて来てくれるのだろうと思うんですけど、でも自分が思い描いていたものと違ったときに「こんなんじゃない」って思われてしまうと、なにも見えなくなってしまうので。変なことやってるって思うかもしれませんけど、脳内で「面白いことやってる」って変換して、優しい心で見ていただけたらなって思います(笑) まあでもそう言うからには、まずはしっかりしたものを見せられないとダメですよね……頑張ります。

亜人間都市『語りえぬもの』

2017年10月6日 - 9日 於 早稲田小劇場どらま館

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『語りえぬもの』ドキュメント
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