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東京ノート インタビュー

黒木・渡邊

亜人間都市『東京ノート』座組のみなさんへのインタビューシリーズ。

第3弾は、亜人間都市・主宰の黒木洋平さん、宣伝美術の渡邊まな実さんです!

(聞き手・構成​ 冨田粥)

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写真左から黒木洋平さん、渡邊まな実さん

——では、簡単にお二人の出自をお伺いできますか?

 

渡邊:ひつじ?

——出自、プロフィールを、お願いします。

渡邊:えっと、新潟県出身で、6年前に上京してきました。東京に。で、24のときに大学を卒業し、今ここへおります。

 

黒木:なるほど。

 

渡邊:はい。

 

黒木:僕はそうだな、大学で演劇を始めて、ちょっとしてから亜人間都市っていうユニットを始めて。最初は何にも考えずに自分のなんか書いたものとか上演してたんですけど、でも自分一人で作りたいわけでもないし、他人との関わりがもっと作品に現れてといいなーと思って、いろんな形を探しながら演劇を作り続けて今に至る。

 

渡邊:大学で演劇始めたんだね。

 

黒木:そう、大学で。それまで演劇は観たこともなかった。香川には演劇という文化がない……ってことはなかったんだけど、知らなかった。日常の中で接することがなかったから。

 

渡邊:そっか。香川、行ったよ。大学でやったよ。

——渡邊さんの出演されたチェルフィッチュ『三月の5日間』の香川公演ですね。

 

黒木:そうそう、いつからあるのか知らないけど、四国学院大学には演劇コースがあって、劇場もある……でも僕の生活の中には演劇がなかったから。いや、そうでもない。親に連れられて人形劇を見たりはしてた。

渡邊:そうなんだ。

黒木:うん、だけどそれとは少し違うから、今やってること。その意味で演劇には上京して初めて触れた。

——なるほど。そうして始めた今回の公演の、稽古当初と今とで、何か変化はありましたか?

黒木:渡邊さんは、あれじゃない? 最初はどうコミットしていいかわからなかったんじゃない? 今は稽古に来て、見ようとしてくれてる感じがするけど、そうなることは最初からは分かってなかったんじゃない?

渡邊:確かに。稽古に来て、見てくれる人がいると助かるみたいなことを言われてたから。やっぱり外の人が入ると、ちょっと違う、刺激になるかなって。外ってわけじゃないけど。毎日来ない人。それで、でも、そこまで行けなかったんだよね。ほんとに3回、4回か。

黒木:あと1回来てたね。

渡邊:あ、そうだそうだ。5回ともだいぶ間隔が空いてしまって、でもそれもなんか面白いんだよね。毎日いれば成長過程が分かるんだろうけど、たまに来たんじゃ、みんなの「あそこがいけなかった、どこがいけなかった」とかっていう話ももう分からない。
でもその分、稽古の最初に言ってたことが、最後どんな表現になったか、ていうことがすごく大きく分かって、それがすごく面白い。最初の頃の本読みのとき、わ〜〜〜って言いながらみんな自由にやってて、その時の「面白いな」っていう感覚がちゃんと通しのときに残ってて、それにすごく感動した。

 

黒木:自由にやってるのが面白かった?

渡邊:自由っていうとちょっと語弊があるかもしれないんだけど、やっぱ「20人を7人でやる」っていうことの中で何ができるかっていうか、どこまでやったら糸がはずれないか、ということをすごく拡張していく作業というか。
本読みやってたときは石倉くんがちょっとサイコパスみたいに見えて、でもそのサイコパスの男の子が途中から別の人物に見えてくる、みたいな、「台詞、役がこうだから」ていうことに縛られないで見え方を探ってる感じがあって、それがすごく楽しかった。その面白さが今も残ってるのを感じたんだよね。

黒木:ああ、なるほど。

渡邊:フライヤーを作ったときに美術館を描かなかったのも、なんかそういうのがあるというか、

黒木:もっと広いもの、都市、街、東京? みたいなのになってるよね。僕、すごい面白いなと思ったんだけど、渡邊さんがチラシデザインのための素材をみんなから集めてて、そのとき「公共だったけど、公共のものじゃなくなってしまったもの」っていうテーマを出したじゃない。その「公共」ていうワードを引っ張ってきたのが、すごく良いと思った。『東京ノート』ていう戯曲、作品から引っ張ってきた一つのアイデアが、でもいろんなところで他の人に影響を与えてるっていうのを感じる。

 

渡邊:うん、そうね。

 

黒木:渡邊さんが引っ張ってきたんだろうけど、でも渡邊さんも誰かから貰ったのかも? そういう誰が出したの分からない、どこかから出てきたアイデアが、全体に染み渡ってるようなこと感じるときがある。それが例えば「公共」ってワード。もちろんそこから考えることはみんなバラバラなんだけど、でもみんなの中に通じてるワードがある。

 

渡邊:私は稽古を見てそれを感じたんだよね。本読みを見て、場や公共っていうものは誰が決めるのか、ていうのを感じたんだよね。それは集う人、その人々が決めることであって、その場所がいくら「公共」ていう看板を掲げてても、公共にはなれない。そういうのを本読みのときに感じたの。
あれは公共でやるようなことじゃない。「美術館のロビー」に沿ってやろうとしてる人がここにいるのだろうか……て考えたときに、そういうワードが出てきたのね。

 

黒木:それは美術館っていう設定があるのにみんなが美術館だと思わずにやっている、ていうようなこともそうだけど、すごくシンプルに「戯曲」っていうものに対する距離感、戯曲の通りにやらないといけない、ていうことからみんな自由だったんだと思う。

渡邊:もし本当に美術館でやりたい戯曲だったら、美術館でやればいい話だから。

黒木:そうね。

渡邊:美術館っていう虚構が描かれているのに対して、そこから離れてみたり、近づいてみたりするのは、すごく絵画を見るにも近しい行為にも思えてくる。そこに「人」っていうことの力を感じたんだよね。
だからけっこう、黒木さんが最初に持っていたものは、ひとりひとりが何を目指すのかっていう、一人一人で歩いてけよみたいな演出プランだった気がしてて、そこからどんどん、派生していった感じがすごくある。

 

黒木:そっか。演出? とは思ってないんだけど。でも僕は企画者で、僕から始まってしまうと、どうしても最初の方向性を決定づけてしまうんだよね。でも始まって、それ以降のことはちゃんと他の人に任せられたらいいなって思ってた。そこに参加してくれた人たちが、各々の行きたいところに行けるように、舵を手渡すというか。
一つの筏をみんなで好き放題、俺の行きたい方に舵取るぜ、と漕いでみる。全員が行きたい方向に舵を切ると、パワーバランスが自ずと決まって、ものすごい一方向にめっちゃ進むかもしれないし、止まっちゃうかもわからない。けど、そこで自ずと進む方向を信じたかった。そのためにも「みんなに舵を渡す」っていうのができるかどうかを最初ずっと考えてた。今も考えてるけど。

渡邊:その舵を自分で持ててる度合いとかも、みんな一人一人違う。でも舵を持つことの強さが、そのまま表現の強さになるわけではないから。なんていうのかな、一人一人にただ委ねられてるっていうその環境自体が、いい気がするのね。上演をするにあたっても。その場を作っていくことが。

黒木:だと良いなと思ってる。だから、筏を壊さないようにしたい、というのは思う。バラバラであっても一人一人が丁寧に漕げば筏は壊れない。みんなが乱暴に漕げば、きっと筏は壊れちゃう。筏がものすごくいい筏であることを、つまり今回だと『東京ノート』っていう戯曲がすごくいい戯曲だっていうことを信じてるから、みんなしっかりと自分の力で自分の行きたい方に漕ぐことができるのかもしれないけど。でも無限に耐久力があるわけじゃないし、傷物にもできない。傷付けないことがいいことじゃないけど、大切にするのはしないといけない。

渡邊:やっぱ、一つのものをつくろうっていうことの意識はあったほうがいいなってすごく思った。目指すべき場所は、一つの方がいいって思うんだよね。

黒木:ルートは、みんな好きな方へ

渡邊:そうそう、ルートはみんな好きな方でいいと思うんだけど、そういうひとつのものを作ってるっていう個々の意識は必ずあったほうがいいんだなって。

——「筏を壊さないようにしよう」という意識はみんなで持つべき、と。

黒木:そうかもしれない。

 

渡邊:なんか筏の壊し方になんか、ネガティブになる壊し方、単純にみてて心配になる壊し方があるじゃん。とか、なんか自分が損になる壊し方はしなくていいんじゃないかなって見てて。

 

黒木:そうね、壊れることはあるかもしれないけど、

 

渡邊:そうそう、壊れることはあるかもしれないけど、でも、壊れちゃったのはもう仕方がないことだから、もうそれは受け止めて。転んでも前に進む力みたいなのがあるといいなって。ばきっと折れたとしても泳ぐぜ! みたいな。そういうあれがあったほうがいいんじゃないかなって。

 

黒木:確かに。それこそ筏を信じることなのかも。筏の端っこ壊れた! みたいなことに対して重く受け止めすぎるともう前に進めないみたいな。

 

渡邊:そうそうそうそう。

 

黒木:このくらい壊れてもきっとこの筏は最後まで耐え抜いてくれる! だから、すまん筏! お前を信じて俺たちはもっと先へ行くぜ! みたいなね。それは大事かもしれない。
 

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黒木洋平

1994年生、劇作家・演出家。亜人間都市の主宰として演劇作品の制作を行う。最近は「自己と他者」というものの見方から離れ「他者と他者」の関係を考えている。それもあって昨年末から読書会を企画したりし始めた。

渡邊まな実

1993年生まれ、新潟県出身。東京造形大学デザイン学科を卒業。主に俳優と宣伝美術として活動をしている。誕生日が節分の日。

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